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龍ケ崎ヒストリー第18回

「住井すゑが描く佐貫駅」2024年3月号

住井すゑ著「野づらは星あかり」に描かれた終戦直後の佐貫駅の描写。

要吉は竜鉄に乗りつぐ人たちを暫くの間、ただぼんやりと眺めていた。するうち、二輌連結の竜鉄は、ボーッと汽笛を鳴らせて動きはじめた。あとは常磐線の上りを待つらしい男女十五、六人。年齢はまちまちながら、みな申し合わせたように食糧らしい大荷物を背負ったり、抱えたり——。(原文を引用)

これは、戦地から復員したばかりの要吉が、常磐線佐貫駅に降り立ち、ぼんやりと竜鉄へ乗換える人たちを見ている描写となっています。当時の常磐線佐貫駅舎は、駅の壁に木製のベンチが造り付けられていて奥行きがあって、内部は薄暗く、駅の中から、竜鉄側に明るく広がる田園風景を見ることが出来ました。おそらく、住井すゑはそんな佐貫駅の雰囲気に特別な愛着を感じていたようです。彼女が同じく牛久沼周辺を描いた名作「向い風」でも、主人公の健一は最寄り駅牛久を避けて佐貫駅に降り立っています。

関東鉄道竜ヶ崎線、愛称竜鉄は佐貫~竜ヶ崎間、途中一駅という僅か4.5kmの短いローカル鉄道。この小説の昭和20年頃は鹿島参宮鉄道の傘下で、二両連結の蒸気機関車が走っていました。そして、佐貫駅は常磐線の改札口と竜鉄の改札口が一直線になっていて、常磐線が到着すると、二つの改札口を結ぶ人の列が出来て、なかなか竜鉄の方へと進めなかったのです。龍ケ崎は茨城県南の中心的な商都として古くから賑わっていて、そのため佐貫駅に列車が着くたびに改札付近は人がごった返していたのです。その中には商人もいれば、買い物帰りの主婦や学生、それらに混じって、戦地からの復員兵もいたのでしょう。

駅のベンチに腰掛けて、そんな光景を暫く眺めていた要吉でした。